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Brave GNU World - 第15号
Copyright © 2000 Georg C. F. Greve <greve@gnu.org>
日本語訳: IIDA Yosiaki <iida@ring.gr.jp>
許可声明は以下のとおり

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ようこそまたGeorgの Brave GNU Worldへ。 今回は定型をやぶって、 法的な側面からはじめて、 技術的な部分に続けましょう。 その後には、 もっと書くようにたのまれたこともあり、 GNUプロジェクトの社会面に関係する若干の思考を詳述することにしましょう。

ifrOSS

1999年、 Institut für Rechtsfragen der Open Source Software (Open Source Softwareの法的問題のための研究所、 または、 単にifrOSS) [5 (独語)] は、 ドイツで創設されました。 この研究所は、 Free Softwareの法的な側面に関係し、 Free Softwareの特別な要件と特質について論じる弁護士のフォーラムであると同様、 情報源にもなろうとしています。

これは、いくつかの理由により、非常に重要な課題です。 まずはじめに、ソフトウェア分野における法は、まだ発展中で、 これらの法がFree Softwareに十分なスペースをちゃんと残しておくようにするため、 有能な弁護士が我々に必要です。 また、重大なビジネスはすべて、法的な視点からあるセキュリティーがいりますが、 ifrOSSは、これを提供する手助けができます。

過去に多くの会社が尋ねたように、 ドイツにおけるGNU General Public Licenseの適用について、 ifrOSS創設者のAxel MetzgerとTill Jaeger [6 (独語)] による興味深い研究が、 既にオンラインで利用可能です。

その研究では、 若干の用語は有効でないものの、 GNU General Public Licenseがドイツの著作権法に関し大きな問題なく適用できる、 という結論に至っています。 問題は「芸術的に設計されたソフトウェア」で、 それの変更が§14 UrhGで定義された完全性の侵害になりうるところが、 問題となりえます。 さらに§31 Abs 4. UrhGによれば、 ソフトウェアを使う新しい方法の創造は、 疑わしくなるでしょう。 明らかに、 最も重要なのは、 AGBGにより無効となる責任の放棄です。 特に、 ソフトウェアが販売されているとき、 責任と保証は、 著しく増加するでしょう。

市場の成功とGNU/Linuxの存在が、 著作権法の下での支払いについての思想を混乱させるだろう、 という最後のコメントも、 とても興味深いです。 その結果生じる討論は、 非常に興味深いものとなるでしょう。

ここでの私の望みは、他の国へのこの概念の波及と、そして、 これらの研究所のある種の"Legal FSF"へとむかうグローバルなネットワーク化でしょう。 そうなると、 さまざまな国での法的な状態について、 ビジネスが非常に容易に知ることができるようになるので、 Free SoftwareとFreedomの成功は非常に促進され、 まもられることでしょう。

それではこの号の技術面です。

xmlBlaster

xmlBlaster [7] は、 GNU Lesser General Public Licenseの条件のもとでリリースされた "Message Oriented Middleware" (MOM)です。 Michele Laghi、 Peter Roth、 Konrad Krafft、 Manuel Kron、 James Birchfield、 Marcel Ruffが、 開発をすすめています。

"Message Oriented Middleware"といっても、 おそらく多くの人々にはぴんとこないでしょうから、 少し補足しておきましょう。 さまざまなプロトコルを使うノードのある違機種間ネットワークで、 情報を交換するとき、 常にMOMが必要です。 古典的な例としては、 国中に散らばった切符発券装置のネットワークがあります。 こういう装置は、 いろいろな業者が製造を、 そして、 いろいろなプログラミング言語をつかうチームがプログラムをしてきました。 たとえば切符の値段が変わると、 「新しい価格」というメッセージを正しい形式に変換してひろめるのに、 実際の装置で変換器を使う必要があります。 また結果 (この場合は、成功か失敗) を管理プログラムにわかる言語に戻すことも、 重要です。 この仕事は、 xmlBlasterのようなMessage Oriented Middlewareによって行なわれます。 前号のJabberとの類似点に注目した人なら、 これも気になりますね。

xmlBlasterは、 クライアント/サーバー・モデルにも頼っていますが、 今回のサーバーは、 純粋なJavaで書いてあって、 JDK 1.2以降のあらゆるプラットホームで走るはずです。 クライアントは、 ほとんど完璧な範囲をカバーしています。 クライアントの見本として、 Java、 Perl、 C/C++が既に配布物件中にあります。 TclとPythonは作業中です。

サーバーとの通信はCORBAに依拠していて、 メッセージをXPath表現でよりわけることができます。 あるアプリケーションでCORBAに問題があるかもしれないなら、 emailやhttpのプラグインも使うことができます。 名前からいうと、XMLで符号化されたメッセージをにおわせていますが、 (バイナリー・データを含め)何でも送ることができます。

ありえそうな利用法は広い範囲にわたっていて、 もしあなたが拡張したければ、 複数のプログラム/コンピュータの間の即時通信に頼るどんなプロジェクトでも、 使うことができるでしょう。 xmlBlasterがいくぶんまだ若いとはいえ、 既に使用はでき、 関心のある開発者はきちんと様子を見るべきでしょう。

Scsh

Scsh [8] は、 Scheme Shellで、 つまり、 プログラミング言語Schemeに基づくシェルであるという意味です。 ですが、 bashのような他のシェルに基づいたスクリプトのあるところに入れても、 うまくいかないでしょう。

Schemeは、 はじめGuy Lewis Steele Jr.とGerald Jay Sussmanの開発した、 非常に強力なLISP系高水準言語です。 つまり、 Scshスクリプトにはリスト、ベクトル、手続き、ハッシュ表、数など、 十分な型のセットがあるということです。 その上、 Schemeの構文は拡張可能です。 ある分野のアプリケーションにはぴったりです。

もちろん、 Scshで普通のシェル・スクリプトを書くこともできます。 これは、 パイプラインやI/Oリダイレクションと同様、 プログラム実行のための特別な表記法でサポートされています。 しかし、 Scshはシステム・プログラミングにも使うことができ、 POSIXシステムの全関数や、 完全なソケット・サポートといったいくつかの拡張へのアクセスを提供します。 普通Cで書くシステム・プログラムを、 Schemeで書くことができるようになるわけです。 Scshを開発しているMITの"Scheme Underground" [9] では、 MITで使われている完全なhttpサーバーまでScshで書いてしまいました。

最大の可搬性を達成するため、 Scshの設計においては、 オペレーティング・システムへアクセスするきれいなインターフェースの作成に、 多大な注意がはらわれました。 普通ちゃんとうごくCコンパイラだけで十分なScheme 48 VMのコンパイルできる環境なら、 どこでもScshをうごかすことができるようになっています。 OSのインターフェースも非常に可搬性があり、 今までのところ、 インターフェースを変えずに、 32ビットのUnixからきた利用できるもの全てに、 Scshが使えています。 32ビットでないマシンへの移植では、 問題がおきています。 またスレッドのサポートはなく、 立上がりもまだいくぶん遅いですが、 これについては作業中です。

コラムの技術面はこのへんにして、 普通コンピュータとは関係ない、 と思われている話題にアプローチしたいと思います。

GNUプロジェクトの社会的側面

そんな意味合いからGNUプロジェクトを見たことの決してないだろう人たちが何人もいる、 ということに私はちゃんと気付いています。 しかし、 既に私の情報的人権宣言で示そうとしたように、 GNUプロジェクトは、単にいいソフトウェアだけでできているのではありません。

元々この部分は、 「どの時代にも、 模範人物がいる。」 と書いた大きなポスターを街中で貼りまくったドイツの "Wirtschaftswoche" (訳せば「ビジネス・ウイーク」) の広告がきっかけでした。 背景の絵には、 ユリウス・カエサル (Julius Caesar) とナポレオン・ボナパルト (Napoleon Bonaparte)、 そして、ビル・ゲイツ (Bill Gates) の石胸像がありました。 もしビル・ゲイツのがなければ、 きっと私は、 この広告を悪いジョークととったでしょう。 しかし、 これはほかでもない「ビジネス・ウイーク」で、 しかも、ビル・ゲイツは世界一の金持ですから、 これは本気だな、 と私は思ったのです。

これらの人々が模範人物だと言おうというのは何でしょうか? ユリウス・カエサルやナポレオン・ボナパルトは、 力づくの征服者かつ極端な自己中心的な人物で、 当時の人口にとって短期間では多少の利点があったのかもしれませんが、 連中の戦争のせいで、 何十万人もの人たちが苦しい目にあいました。 2人ともある時点で現実との接触を失って、 自分を全能だと考えました。 カエサルは独裁者であると表明して殺害された一方、 ナポレオンは制御できる以上に併合をすすめて追放されました。 もしその絵にもっとあきがあったら、 この同じ列にはアッティラ (Attila: 訳注…フン族の王) やジンギス汗(かん) (Ghengis Khan: 訳注…元の太祖、成吉思汗) が、 ぴったりだろうと思います。 この人たちは全て非常に歴史的だし、 表面上確かに世界は変わりました。 でも模範人物?

ビル・ゲイツの絵ぬきだと、 GNUプロジェクトとの関係は、 おそらく非常に見づらいでしょう。 しかし、 既に米国の法廷で表明されたように、 彼の経済的な行動は、 前述の例との類似点を赤裸(せきら)にしています。

"Wirtschaftswoche"は多分、 この人たちのもっている、 または、 もっていた力を示したかっただけでしょう。 しかし、 他者の苦痛に基づく力の純粋な累積で、 人は模範人物になるのかどうか、 私には非常に疑問に思えます。

さてGNUプロジェクトの社会的側面にいってみましょう。 GNUプロジェクトは、 ソフトウェアの自由をひろげます。 なぜなら、 これが人にとってもっと良いソフトウェアに通じるからです。 しかし、 これが唯一の理由なのではありません。 これは、 他の誰かを直接犠牲にせずに、 あなたと他の全ての人の利益になる何かの上で、 あなた自身のエネルギーを傾けることに関するものです。 大勢の人たちは、 これを利他主義と間違えるのですが、 この戦略は、 利己的なのです。 著者は、 自分のほしいと望むとある利益のため、 プログラムを書きます。 この利益は、 楽しみ、 評判の構築、 支払い、 利他主義やもっと多くのいろいろなかたちをとることができます。 しかし、 利他主義は可能な動機のうちのほんの1つで、 主な動機ではありません。

結局、 この哲学の目標は、 他の人間をできるかぎり害さず、 もし可能であればいつでも他の人間を助けられるような、 あなた自身の生活空間を作ることです。 しかし、 人々が「善」であることは、 要求されません。 他への流れをさえぎることができないため、 ほとんど無数の「寄生体」でさえも、 平和に共存できるのです。 ソフトウェア分野では、 全ての人が他の誰かの作成物で利益を得ることができるのと同時に、 変更が全ての人に利用可能であることを、 GNU General Public Licenseが保証しています。 実際、「寄生体」は、運動を強化しています。 なぜなら、 連中がこれに自らの基礎をおき、 間接的に標準だと宣言しているからです。

これがソフトウェアの世界でどう機能するかは、 比較的明白です。 いつも同じくらい簡単に答が見つかるとはかぎりませんが、 この思想を他の領域へ移すこともできます。 第1段階は多分、 個人の貢献を保護しつつそれを他の人にも利用可能にする、 GNU GPLに相当するものをつくりだすことでしょう。

ところで、 (GNUプロジェクトの初期には特に) 何回も行なわれたいいがかりですが、 これは、 共産主義とは何の関係もありません。 共産主義は、 「善」で「非利己的」人間に基づいているうえ、 所有権の概念を攻撃していて、 私を含む大部分の人々の恐怖や不安の感情をかきたてています。

GNUプロジェクトは、 むしろ「利己的な共有」の形式をとります。 そこでは、 全員が個人的な利点を求めるのですが、 その人にとって支障とならなければ、 ほかの人にも利益をあげるのです。

この説明で一線を画すことができたかどうかはわかりませんが、 少なくとも多少の興味深い考えを提供できたとは思います。 もしこれがあなたにとって無意味に思えたら、 好きなように無視してください。

それでは、皆さん

今月はこのへんでおわかれをして、 私は次の一歩を新しい地点へとすすめることにします。 次のコラムはそこから書くことになります。 あとは、お考え、ご意見、ご質問、面白いプロジェクトをいつものアドレス [1] に送ってくださるように、 と書いておくだけですね。

情報
[1] 意見、批判や質問は Brave GNU World <column@gnu.org> まで
[2] GNUプロジェクトのホームページ http://www.gnu.org/home.ja.html
[3] GeorgのBrave GNU Worldのホームページ http://www.gnu.org/brave-gnu-world/brave-gnu-world.ja.html
[4] 「We run GNU」イニシアチブ http://www.gnu.org/brave-gnu-world/rungnu/rungnu.ja.html
[5] "Institut für Rechtsfragen der Open Source Software" (Institute for legal questions of Open Source Software) (独語) http://www.ifross.de/
[6] "Open Source Software und deutsches Urheberrecht" (Open Source Software and German copyright law) (独語) http://www.ifross.de/ifross_html/art1.html
[7] xmlBlasterのホームページ http://www.xmlblaster.org/
[8] Scshのホームページ http://www.swiss.ai.mit.edu/ftpdir/scsh/
[9] Scheme Underground http://www.ai.mit.edu/projects/su/su.html

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Japanese translation by IIDA Yosiaki

日本語訳: 飯田義朗

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(著作権と上の許可告知のある限り、 この写しの逐語的な複製をとって、 配布する許可を認めます。)

Last modified: Tue May 16 12:08:15 CEST 2000